Robert Schumann

Musikalische Haus- und Lebensregeln


Japanische Übersetzung



japanische Übersetzung von Seiko Kakefuda: (PDF) zurück

Robert Schumann,“ Musikalische Haus- und Lebensregeln“

日本語訳「後輩の音楽家ヘ向けてのアドバイス」

翻訳者:掛札誠子(Hannover 在住)

この翻訳の際、現在のドイツ語表現と違っているRobert Schumannのドイツ語を日本語に翻訳する事の難しさを痛感させられた。Robert Schumann が後世に伝えたい意図を、読者の皆さんに分かりやすく理解して頂く為に、「訳者注:・・・」の方法を使って、内容の解釈を補う事にした。

                  

1)(訳者注:音楽の勉強を始める際に)聴覚、音感の能力を育成していく事が一番大事な事である。訓練の初期から、(訳者注:「これは何調かな?」とか、「これは何の音だろう?」等と)音を聞き分けられる様に努力すると良い。鐘の音、窓ガラスに響く音、カッコウの鳴き声等の音が何の音であるかを聞き分けられる事も大切な訓練の一つである。

2)音階練習、その他の運指練習を一生懸命訓練する事を怠らない様にしなさい。しかし毎日何時間も時間をかけて機械的な練習を年をとるまで続ければ、何でも事をまっとうする事が出来ると勘違いしている人が沢山いる。これは「ABC」を毎日努力して早く、早く発音しようとする事と同じである。時間と能力を良く考えて、それらを有意義な効果のあるものに使いなさい。

3)「音の出ない鍵盤」という物が発案された。これを暫く使ってみると、全く役に立たない物である事が分かる。「耳が聞こえずしゃべれない人」から言葉を学ぶ事が出来ない事と同じである。

4)曲の拍を正しくとって弾きなさい。名演奏家といわれる演奏家の中には、酔っ払いが千鳥足でふらふら歩いているような演奏をする人がいるが、これをお手本にしてはいけない。

5)音楽の勉強を始めた早期から、和声の基本規則を勉強しなさい。

6)音楽理論、通奏低音、対位法等々の言葉に恐れ怖じてはいけない。自分から進んで学ぶ気持があれば、克服して理解出来る科目である。

7)ピアノをふざけて意味もなくガチャガチャ弾いてはいけない。ピアノに向かう時は、いつも新鮮なファイトに燃えた前向きの姿勢で接しなさい。そして更に、曲を生半可に中途半端で終わらせてはいけない。(訳者注:楽譜のページ数の半分をも意味しているかもしれないが、訳者はもっと深い意味に解釈して、完璧とまで言えなくても、ある一定のところまで曲が理解出来て、完成するまで、練習をしなさい、と感じ取った。)

8)曲のテンポを意味もなく引き伸ばしたり、性急にはやくしたりする事は、どちらも間違っている。

9)やさしい曲を上手に綺麗に演奏する事に努力しなさい。これは難しい曲を平凡に演奏する事よりもはるかに価値のある事である。

10)楽器をいつも正しく調律しておきなさい。

11)今練習している曲をただ指先だけで弾ける様になるのではなく、ピアノ(楽器)無しでもメロディーを口ずさむ事が出来なければならない。作品のメロディーだけではなく、それに付属するハーモニーもしっかりと記憶出来る様に、想像力を研ぎ澄ましなさい。

12) たとえ小さな弱い声であっても、楽器の助けを借りずに,初見で歌える様に努力しなさい。この訓練をする事によって、聴力、音感に徐々に力をつける事が出来る。もし響きの良い声を持っている人ならば、一時の時間も無駄にしないで訓練しなさい。その美声は天から授かった最高のすばらしい贈り物と思いなさい。(訳者注:その美声はその人だけが持つ素晴らしい生まれ持った才能である)

13)楽譜に書かれた音楽を通読するだけでその音楽内容が理解出来るように成長していきなさい。

14)演奏している時、「誰かに聞かれているなぁ」等と気にしない事が大切である。

15)常に、尊敬する名演奏家に聞かれていると思って演奏しなさい。

16)ある人から初めて作品を見せられて、それを演奏してくれと頼まれた時、まず最初にその曲の楽譜を楽器なしで通読しなさい。

17)一日に勉強しようと思った課題をやり終えて、その時疲れを感じたら、その先の練習を無理にしてはいけない。意欲、気力、悦び無しで勉強するよりも、思い切ってさっぱりと休息を取る事が一番大切な事だ。

18)成長して大人になったら、流行の曲を弾いてはいけない。「時は金なり」の諺通りで、時間を大切に使わなければいけない。現在存在する数々の作品を良く知りたいと思ったら、通常人間の持つ寿命の百倍も掛かるだろう。

19)(訳者注:ケーキ、ビスケット、キャラメル、チョコレート等の)甘いお菓子で子供を健康な成人に育てる事は出来ない。精神の糧は肉体の糧と同様に、純粋で、滋養に富んだ物でなければならない。大作曲家達がこの精神の糧になる作品を十分に用意してくれている。これを糧として生きて行きなさい。

20)全てのパッセージ(経過句)(訳者注:音階、分散和音等、指を早く動かして弾く技巧を使ってフレーズを作る)は、時の流れと共に変化して行く。ただし、(訳者注:作曲家が作品の)高い表現目的に、指の高度の技術を必要する場合にだけ、その価値が評価される。

21)不出来で価値のない作品を世に広めてはいけない。反対に、それらの作品を阻止する事に力を尽くしなさい。

22)不出来で価値のない作品を演奏してはいけない。そればかりでなく、無理にその作品を演奏する事を強いられた時以外、耳を傾けない様にしなさい。

23)Bravour( フランス語)と称されるきらびやかに飾られて超高度の技巧を追求してはいけない。作曲家が意図とした事を、作品を通して印象深く表現出来る様に心がけなさい。それ以上の事を追求するべきではない。オーバーな事をする事は作品に歪みを与える事になる。

24)優れた作曲家の作品に手を加えて変えたり、省略したり、又は今はやりの装飾音を導入したりする事は、軽蔑すべき事と考えなさい。この行動は芸術に対してとる最悪の侮辱に値する。

25)勉強しようとする曲を選ぶ時、経験のある年上の人の意見を聞きなさい。そうする事で、かなりの時間が節約できる。

26)優れた大作曲家の全ての重要な代表作品を徐々にマスターして行きなさい。

27)名演奏家といわれる人が受ける拍手喝采に惑わされてはいけない。観衆から受ける喝采よりも芸術家仲間から受ける喝采の方に価値があるのだ。

28)全ての流行スタイルは、いつかは飽きが来て流行遅れになる。年をとってまで流行を追っていると、うわずって見えて、人から真剣に扱われないだろう。

29)公の場で頻繁に演奏する事は、自分に役立つよりも害になる事の方が多いだろう。付き合う人間関係をよく考えて、吟味して付き合いなさい。内心恥ずかしいと感じる曲を決して演奏してはいけない。

30)二重奏(Duo)、三重奏(Trio)等他の演奏家との合同、共演が出来る機会を逃がしてはいけない。この共演の体験が今までの演奏に流暢さを与えてくれて、演奏を生き生きとさせてくれる。声楽家の伴奏も機会があったら引き受けてやると良い。

31)もし全ての音楽家が第一ヴァイオリンを弾きたいとすると、オーケストラを編成する事が出来ない。由に、それぞれの持場にいる音楽家を大事に尊敬しなさい。

32)自分の使う楽器を大切にして愛しなさい。しかしその楽器が最高質で唯一の物だと自惚れてはいけない。他にも同じ様に素晴らしい楽器がある事を知っておきなさい。更に声楽家がいるという事、コーラスとオーケストラによって、音楽の最高の表現がなされる事も知っておきなさい。

33)成人したら、名演奏家と言われる人の演奏を聴くよりも、総譜(スコア)を頻繁に手にして、勉強しなさい。

34)大作曲家のフーガ、特にまずはヨハン・セバスチャン バッハのフーガを一生懸命弾いて勉強しなさい。バッハの「平均律 クラヴィーア曲集」を毎日の音楽学習の糧としなさい。そうすれば必ず才能のある音楽家に成長する事が出来るだろう。

                         

35)音楽家仲間の中で、自分より博学な友人を探しなさい。

36)音楽の勉強をしている時、気分転換をする意味で、詩人の作品をまめに読ん

で、休息すると良い。出来る限り外気に触れて散歩もしなさい。

37)声楽家達から多くの事を学ぶ事が出来る。しかし彼らの言う事全てを安易に信じてはいけない。

38)遠い山の後方に、あなた達のまだ知らない人々が住んでいる。(訳者注:世間は広く、まだ知らない場所に、どんな才能を持っている人がいるか推測出来ない)由に、常に謙虚でいなさい。先代の人々が、今までに考察したり発見したりした事無しで、あなた達は考察したり発見したりする事は出来ないのだ。もしそれが今出来たとしたら、それは天からの贈り物と思って、その成果を人々と分かち合いなさい。

39)いろいろな時代の代表的な傑作を意識して聞きながら勉強した音楽史の知識は、あなた達の内心に起こる高慢な自惚れや虚栄心を即座に癒してくれる(訳者注:抑制してくれる)。

40)ティボゥー氏の「音楽芸術の純粋性について」(訳者注:“Über Reinheit der Tonkunst“ 1824年著作、 Anton Friedrich Justus Thibaut, 生誕1772年1月4日 Hameln – 死去1840年3月28日 Heidelberg)という立派な音楽書がある。成人したらこの本を何回も読み返しみると良い。

41)教会の傍を通った時オルガンの音が聞こえてきたら、教会の中に入って聞きなさい。幸運にもオルガンの椅子に座らせてもらえたら、小さな指(訳者注:この書は、Robert Schumannが青少年に向けて書いた物なのでこの表現になった)で試しに弾いて見るとよい。すると音楽の全能を感じ、その感激に圧倒されるだろう。

42)オルガンで練習できる機会を取り逃がしてはいけない。作曲上、演奏上の不純性、不透明さ、汚さを即座にあからさまに証明できる楽器は、オルガン以外にはない。

43)合唱団に入って、特に中声パートを精魂込めて歌うと良い。そうする事が更に音楽性を成長させてくれる。

44)「音楽的だ」という事は、一体どういう事なのだろうか。もしも、不安でおどおどした目で楽譜を読み、やっとの思いでどうにか曲の終わりまでたどり着けたという状態では音楽的といえない。更に、譜めくりの人が楽譜を2ページ一緒にめくってしまった時、突っかかって先が弾けない場合も音楽的といえない。その逆に、新しい曲を弾き始める時、その曲がどう展開していくかおおよそ予想出来たり、よく知っている曲を暗譜で演奏できる様なら、音楽的だといえる。いい換えると、音楽を指先だけでなく、理性と感情で表現する事が出来たら音楽的だといえる。

45)ではどうすれば「音楽的」になる事が出来るのだろうか。鋭い聴力(よい耳)、理解・解釈力は天からの授かり物である。(訳者注:鋭い聴力(よい耳)、理解・解釈力は、各々の人間の持つ生まれ持った才能である。)しかし素質、才能は訓練して力を付けていく事が出来る。部屋に閉じこもり、孤独な日々を過ごしたり、ただ機械的な練習に励むような事ではいけない。そうではなく、生き生きした多方面の音楽に

接し、特にコーラスやオーケストラとも接する事が「音楽的」になる助けになる。

46)人間の持つ重要な4種類の歌声の音域を早くから知っておきなさい。特にコーラスに耳をすましなさい。どの音程が最も力強い豊かな表現力を持っているか、

どの音程が柔らかさ、やさしさの表現に使われているかを探求しなさい。

47)熱心にいろいろな国の民謡を聞きなさい。民謡は美しいメロディーの宝庫で、各国の国民性を知るきっかけを与えてくれる。

48)音楽の勉強を始めた早期から古い音部記号を読む勉強をしなさい。それが出来ないと、沢山の過去の宝物の遺産が閉じ込められたままになってしまう(訳者注:古い音部記号を読む事が出来るように勉強しておくと、昔の作曲家のオリジナルの楽譜(Faksimile)を読む事が出来る)。

49)音楽の勉強を始めた早期からいろいろな楽器の音色や音質を意識して聞きなさい。各々の楽器の持つ独特の音色を耳にはっきりと記憶しておきなさい。

50)良いオペラ公演を聴き逃がさない様にしなさい。

51)昔の物を尊敬し大切にしなさい。しかし、新しい物にも又あたたかい気持ちで接しなさい。自分にとって未知の名称に対して偏見を抱いてはいけない。

52)初めて聞いた作品を直ぐに評価をしてはいけない。最初の瞬間に気に入った作品が、常に最優秀な作品といえないからである。大作曲家の作品を評価するには,勉強しなければならない。年をとってから初めてその作品の良さが分かる事が多々にしてある。

53)作品を評価する時、その作品が芸術作品に属するか、又はアマチュアを楽しませ喜ばす目的の為に作られた作品であるかを区別すべきだ。芸術作品を大切に守り、アマチュアの為に作られた作品に対して腹を立てない様にしなさい。(訳者注:作品が気に入らなくても、あまりいらいらしない方が良い。)

54)「メロディー」は、アマチュア、音楽フアンに感激、感動を与える大きな影響力を持つ。確かに、メロディーの無い音楽は有り得ない。彼らが言うメロディーとは、分かりやすく、親しみやすいリズムだけだと言う事を知っておかねばならない。しかしその反面、メロディーには他のタイプも存在する。バッハ、モーツァルト、ベートーヴエンの楽譜を開いて見て行くと、たくさんの違った種類のメロディーが現れてくる。貧弱で簡単なメロディー、特に最近のイタリアオペラのメロディー(訳者注: Schumannの生存時代の当時のイタリアオペラをさす)に、多分近い内に飽き飽してしまうのではないだろうか。

55)ピアノを弾き試しながら小さいメロディーを探し集める事も良い事だ。ピアノ無しで自然にメロディーが浮かんでくる様になったらもっと喜ばしい事で、その時音楽の意図が頭で考えられる様になったと言える。頭で思考した事によって指が動かなけらばならないのであって、その逆は有り得ない。

56)全ての事を頭の中で考えて、作曲する事を始めなさい。まず曲が完全に仕上がってから楽器で弾き試ししてみなさい。作曲した音楽が精神的感情から出来た物で、自分もそれが感じられた時、その曲は他人の心にも同じ様に感動を与えてくれるだろう。

57)天が生き生きとした想像力を与えてくれたとしたら、グランドピアノの前に座って、一人で孤独な時間を過し、そこで自分の内で想像したハーモニーを使って表現しようとするだろう。その時和声の理論がまだ良く分かっていない場合、神秘的な世界に魔力で引き込まれて行く様な気持になるだろう。この経験は若い時に体験出来る最も幸せな一時である。あまり頻繁にこの事に才能を使わない様注意しなさい。労力と時間を、幻影を追う事に使い過ぎない様に気をつけなさい。楽譜に音符をしっかりと書きとめられる事によって、形式をマスターする事が出来、曲をはっきりした形に作る力が得られる。空想にふけるのではなく楽譜に書き記しなさい。

58)音楽の勉強を始めた早期から指揮法の知識を身に付けなさい。優れた指揮者を出来るだけたくさん観察しなさい。こっそりと一緒に指揮してみてもかまわない。そうする事でテクニックがはっきりと理解できるだろう。

59)自分の人生をしっかりと生きなさい。そして他の芸術家や学者達にも目を向けて交流を持ちなさい。

60)モラル(道徳)の掟は芸術の掟でもある。

61)まじめに忍耐強く努力すれば、向上して高い水準にまで成長する事が出来る。

62)小銭で購入できる500グラムの鉄から十万倍の価値のある時計のぜんまいを何千個も作る事が出来る。神様から授かった500グラムの才能を大事に使いなさい。

63)感激、情熱なしで芸術界での良い成長をなす事は出来ない。

64)芸術は金持ちになるための物ではない。常に大きく成長していく芸術家になりなさい。(訳者注:それに専念すれば)他の事は自然に伴なってくる。

65)音楽の形式がはっきりと把握出来る様になって初めて音楽の心、精神が分かる様になるだろう。

67)天才を理解する事が出来るのは多分天才だけであろう。

68)ある人が言っているが、完璧な音楽家は、初めて聞いた曲、それが例え複雑なオーケストラの曲であっても、実際の総譜(スコア)が目の前に浮かび上がって見えるそうだ。これはまさに我々が考えられる範囲での最高の能力である。

69)学ぶ事には終りがない。

最後に、翻訳の期間中相談にのって下さった友人の神野愛さんとFrau Ilka Weinreich

に厚く感謝する。また、更にHerr Everard Sigal の御好意で、氏のホームページに私

の翻訳文を載せて頂けた事に対しても、氏に心から深く御礼申し上げる。